廃墟の鳩

夢を見た。
私は、帰郷している。
家の一階でスナックを経営している父と母。(現実はもう店は絶たんでいるが)
家は三度改装しているが、この夢は二度目の模様である。二階は台所と居間、父の書斎と親の寝室があり、三階は浴場と洗濯場、物置部屋(高校時代の私の部屋)に、弟夫婦の部屋、それから、広いベランダがある。
久しぶりの私の帰郷に、初めは機嫌良く気を使って優しい父も、相変わらず我がままな娘の傍若無人な態度に、そのうちセンチな気分も吹っ飛び、食後お酒を飲んで調子づいた頃には、以前と変わらぬ毒舌を吐いて私を責めて辛くあたる。
そんな私をふびんに思い、母が私の味方につくや、父の矛先は母に向かい、必ず夫婦喧嘩が始まるのがお決まりのパターンなのだ。
この夢も、そんな前日があった(見なくともそうなのだ)、翌日の午後の事である。
昼の間、酒やタバコですえた匂いがする店の空気を入れ替える為、入り口の扉を開けたまま。
私は昔から、この昼間のひんやりした店の空間に独りで居るのが好きで、ボックスで本を読んだり、カラオケをしたり、空想にふけったり、うたた寝をするのだが、この日もそうだった。
ただひとつ違っていたのは、ギターがあり、私はそれを弾いて歌を練習してるのだということ。
私は練習に飽きてしまい(現実もすぐに気が散る)、ふと店を見渡せば、雑然とモノが溢れて囲まれていた。このあたりは、まるで店を絶たんでしばらく物置になっていた時の様だ。
私は移動しようと、モノを跨ぐように勢いつけて、大きく片足を蹴り上げると、そのままゆっくり浮遊しながら円をかいて着地した。
『えっ?あ、そっか〜、私、浮くんだった〜。』と気づき、次は、両手を上げ、同時に両足で蹴り上がると、頭の高さ位で宙に浮いて進んだ。徐々にスピードが落ちれば、平泳ぎのように両手で空気を掻き出すと、水中のカエルのように進む。
面白くなって、がむしゃらに空中を泳いでいると、母が店の冷蔵庫から何かを取る為、二階から降りて来た。
私は直ぐに母を捕まえて、得意になってこの芸を見せたのだが、母は全く反応がなく、むしろ興味がないという風なので、私は、この芸がどれ程、希少なのか、なぜそれが分からないのか、責め立てた。
しかし母は、大きなため息をひとつつき、その上、無表情にこう言った。
『○○○が帰ってくると、疲れるわ』

!!! 
私は、言葉を失い、小さな鳥のように動揺して、何度も母の目を覗きこんだ。
心を許している親であり、いつもどんな時でも味方になってくれる母の口から「私の存在が疲れる」と言っているのかと、そう思い、気が動転して、そのまま夢から醒めたという訳。


まあ現実は、「いつも静かやから、○○○がたまに帰ってくると、疲れるわ〜」などと、父からも母からも毎回のように言われるし、ムッとなって気分は良くないけど、親子なんだし何とも思わない。
特に、フィルターを通さない真っ正直な思考回路が、直に口まで太っとく一本通っているだけのような父の言葉攻撃には慣らされてきたとも言える。(愛情表現が複雑な父)
それに、私だってたまに帰郷すると、嬉しい反面、平常と違う環境で、ものすごく疲れるもの。

こんな夢を見るのは、自分の存在意義とかを考える若者のようだが、それは違う。存在意義など、どうでもいいもの。
ただ、時に、コミュニケーションで上手く立ち回れずにいる為、自分の言動で人を怒らせてないかと、不安になる事が少なくないの。
分からなくって、どうしようもなくって、開き直るのだけれど、やっぱり克服できていない。
そういう時は夢を見たいな。いい夢を。うまく生きて行けるって思うような…。


日記と関係ないけど、この歌聴いて下さい。
ザ・タイガース『廃墟の鳩』