あれはおばあちゃんだったの?

yo-en2015-07-12

毎夜蒸し暑さで、浅い眠りが続くこの頃だ。昼下がりに気だるい身体をベッドに横たえウトウトしていた。
窓から入る風がカーテンを揺らし、私の足をくすぐるものだから、気持ちよく目を閉じた。
不思議な感覚の夢を見た。
白昼夢というものだろうか、夢の中でこれは夢だとはっきりと感じた。
何かしらの夢を見ていたのであろう。急に場面ががらりと変わり、驚きのあまり脳が半分覚醒されたようだが、身体は寝ている。
その場面とは、遠い昔の記憶の15歳まで存在した祖父母の家の中。
誰もいない。部屋は似ているが少し違う。
夢の中でも感触はあるのかと、神経を研ぎ澄まして戸を開ける。指先に感覚は感じるが現実ほどリアルではない。
階段を上がれば祖父の部屋でその下は納戸。まるで目に焼き付けるように部屋を見渡す。見渡せば見渡す程、全く違う部屋になってゆく。
外へ通じる裏口のドアを開けようとした時、もうこの家に戻れない気がした。
裏口を開けると、表まではよく遊んだ空間、沢山の思い出があり、過ぎ去り忘れてしまっていた光景に感無量、だがほんの一瞬で消えた。
すると背後に誰か女の人の気配がして、何かを話しかけてくるのだが、それは意味があるのかと思えば、そうでもなかったし、たまらなく眠気がして気が遠くなってゆくので、
『ごめんなさい。もう寝てしまうかも知れません。』と私が言うと、顔も見えないまま
『大丈夫。良く眠り。おやすみ。』と言って、崩れて横たえた私に柔らかい布団を頭からふわりとかけてくれた。
安心して眠りにつくや否や現実の世界に目が醒めた。



私の家から歩いて5分、同じ町内に祖父母の家はあった。
小さい頃から私と弟は良く祖父母に面倒を見てもらい、小学校に上がる頃になると私が弟の手をとり、週末の夜は泊まりに行っていた。
祖父は寡黙な人で怖い存在だった。食事時、姉弟で喧嘩しても黙っているのだが、祖母の料理に文句(田舎料理だからね)を言うとすごく怒られた。私が12歳の時に胃癌で亡くなった。
祖母もどちらかというと寡黙な人だったが、祖父が亡くなってから、もっと口数が少なくなった。
中学に上がった私は、もう泊まりに行く事は徐々になくなったが、まだ小学生の弟は隠れ家のように頻繁に泊まりに行っていた。
祖母は祖父が亡くなってから1年以上も、毎日のように必ず仏壇の前で泣いていた。はじめの内は肩や背中をさすって一緒に居てあげるのだけど、1時間、長いと2時間もあまりに頻繁に泣くので、最後は、また始まったと思うだけになった。
やがて徐々に、泣く時間が減り、やっと泣かなくなってからある時、10人いる子供の内の東京に住む娘家族の所に初めて訪れ、暫くいる間に髪にパーマをあてて帰ってきて、東京で買った普段着ないような柄の洋服を着ていたので、私が
『おばあちゃん、どうしたの?そんなパーマして』と言ったら、『好きなように生きんといかん』と言った。
嬉しい反面、急に今までと違う祖母に、違和感と少しの嫌悪感も感じた。
でも、遅かった。それから間もなく(殆ど記憶にない、多分他の事で足が遠のいたのだろう)、私が15歳になる前、膵臓癌で亡くなった。
最後、病室で『死にたくない、死にたくない』と言いながら死んでいったと母から聞いた。
私はその時何を思ったのか、もう忘れてしまった。
仏壇の前で、あれほど『おじいさん、何で私を一緒に連れて行ってくれなかった』と泣いていた祖母の姿を重ねて。
あの湿った部屋は家と共に壊されて土地は人の手に。
今でも祖母を思い出すのは、あまり笑わなくなった祖母が、土曜の夜だけは、当時テレビでやっていたドリフの八時だよ全員集合を弟と私と一緒に見てくれて、大笑いするのだ。
私もおかしいのだが、嬉しくて自分が笑うのを忘れてしまう程だった事だ。