『甥の夏』
『甥の夏』
ゆかちゃんのお母さん
私をいつまでもそう呼ぶ
あの子は大人にならないの
あの子の目はいつもキラキラ
お兄ちゃんのカード全部もらえて
今は数えるだけなった、ご自慢の擦切れたカードを見せてくれるはず
『ねえねえ、ゆかちゃんのお母さん?ゆかちゃんは?』
夏休みの真っ黒に日焼けしたゆかちゃんを追いかけて見失い
あの子は私に尋ねるわ
ゆかちゃんはもう、お嫁にいったから遊べないの
あの子はきっと目を輝かせて、『ふ〜ん』と頷き
そしてまた自由に時の合間をくぐり抜けてゆく
川原の共同洗濯場
グランドの草野球
綺麗な石ころ探し
メダカの学校
雲雀(ひばり)の囀り
夏の思い出
雲みたいなソフトクリーム
ラムネのビー玉
虫さされの十文字
毬栗の坊主頭と首筋の汗
打ち水と土埃の匂い
夏の思い出
※甥は生まれる直前に大きく破水、救急病院受け入れの不手際により、救急車の中、長時間脳に酸素がいかず、脳性麻痺により脳半分に障害を持ち、身体・知的の重度の後遺症が残った。上に兄、姉、下に妹の四人兄弟。