チェリッシュの思い出

私の親の家業はスナックだった。
高校生の時、家に居候していた6歳上の流れ者のホステスがいた。
目の細い一重瞼の鼻ペチャで、前歯は虫歯で黒ずんでマヌケだし、どこだか忘れたが、何を着ても着映えしない悲しいほどの田舎者で、おまけに弟子入り前の相撲取りみたいに肉付きがいい。決して美人とは言えないが、愛想が良く、笑うと、おかめみたいな顔になるのが愛嬌あって憎めなかった。
そんなおかめと私は、とっても気が合う友達になった。
うちに居候していた一年間は、学校から帰ると、おかめと喫茶店に行ってタバコをふかし、おかめの給料が入ると、それでご飯を食べによく連れて行ってくれた。
おかめは、そのうち、近くに古いアパートを借りた。
その頃、二人はすでに気心知れた遠慮のない付き合いだったので、喧嘩もよくしたが、お互いの行き来が少なくなっても、さして心配する事はなかった(最もおかめは好きになった客の男にしょっちゅう振り回されていたし、私の方もそれなりで)。
やがて私が、付き合っていた彼の家出に付き合わされて愛の逃避行なりをする頃には、おかめが私によそよそしく、どうやら、うちの給料の不満事や店の裏事情を、他で吹き歩いているなどと耳に入り、寂しくなって、別れも告げず、それっきりになってしまった。
その後、おかめは、うちの店を辞めて隣町のスナックで働いていたが、2ヶ月分の給料を前借りしたある日、突然失踪してしまったと噂で聞いた。
あのあとから何度かあった無言電話、受話器の向こうにおかめが泣いているように思えて仕方がなかった。そんな遠いあの頃を思い出した晩夏でした。



おかめへ。
おかめは、カウンターでおしぼりを丸めて、私はボックスで猫とじゃれていた光景が、今でも鮮明に目に浮かびます。
チェリッシュが好きなおかめへ、どこかの町へ、この歌届け!