タコ公園

 

お店のホステスさんと、お母さんがおしゃべりしてた。
 私が3歳になるかならない時だって。
 「お前は橋の下で拾った子だ」ってお父さんが言うから泣き出して、次の朝、本当のお父さんとお母さんを探すため、ガレージの隙間から家を出てしまったんだって。
 近所の人に聞いて、慌ててお母さんが自転車でほうぼう探して見つかったの。家からくねくね曲がった1キロ先を一人でヨチヨチ歩いてたって。それから驚かせないようにそうっと近づいて「ヨシエ、どこ行くの?」と聞いたなら「タコ公園に行く」だって。
 突然おしぼりを巻いてたホステスさんが高笑い。ところが私は言葉に出来ない感情や景色がわわわっといっぺんに湧いてきた。
 本当のお父さんとお母さんを探さなきゃって思った事や、途中でどこに行けばいいのか分からなくなって道端の草をむしっていた手触りや匂い、お母さんが声をかけてくれた顔がどんなかは全く覚えてないけれど。
 次にその声を遮るように思い出すのは、大きくなった私と、タコ公園は変態の男が出るから行っちゃいけないって誰かが言い出した事や、それを聞いて友達と変態の男の顔を見に行った事や、誰にも言えない、タコの頭の中での秘密事まで、鮮明に思い出そうと巡らせていたのに、酒屋さんの大声に我に返った。 
 「おっ、ヨシエちゃんとこ、今夜はカレーかあ」だなんて。  (ヨシエちゃん中学1年生)