そろばん塾


 今日は月曜日、そろばん塾の日、嫌な日。
 そろばん塾のおじいさん先生とおばあさん先生が結婚して、私の担任の先生が生まれたなんて、なんか変な気持ち。
 担任の先生はいつも男子ばかりひいきするって、女子達が掃除の時間に言ってた。私は担任の先生の目が怖いから、まっすぐ見れないけど、あきらくんと話す先生はいつも笑ってて優しいから、私もそう思う。 
 三年生の終わりに塾に入った時、私に優しかったおばあさん先生は、今はもう怖い。学校で忘れ物や遅刻ばかりして、みんなに嫌われてるって担任の先生から聞いたのかもしれない。
 おじいさん先生は背が高くて声が大きい人。「ねがいましては〜」と言うと、みんながそろばんをジャーッと鳴らす。みんなで揃ってそろばんをはじくと、まるで音楽みたいで楽しい。
 でももう、そろばん塾には行きたくない。私はずうっと準2級のまま。あとから入ってきた子に抜かれてばかり。足し算も引き算も掛け算も割り算も、そろばんなら出来るのに、暗算は、みんなと同じ様にできない。先生は、机の上にそろばんがあると思って、同じように指ではじいて計算するって言うけど、全然できない。
 今日の分が終わった子が、答え合わせをしてもらうため、先生の机に並び始めると、私は先生の目を盗んで、あわてて暗算をそろばんで計算する。わざと少しだけ間違えておく。
 でももう、きっとばれてる。
 おばあさん先生は、今では、私を知らない子を見るような目でちらっと見るだけ。挨拶しても前とは違う。担任の先生みたいに顔を合わせられなくなった。
 靴を履いていたら「雨降るから早く帰りなさいよ〜」と、おばあさん先生が声を掛けてくれた。心臓がドキッとした。嬉しくて振り返ったら、帰り支度を済ませて下駄箱に駆け寄る女の子が「はーい」と明るく答えて、私を追い越して行った。
 その子のかばんの鈴が、遠くまでスキップしていた。(ヨシエちゃん5年生)